novel_1

なこ、プリパラデビュー

「んー、それじゃあここ半音あげよう。……どうかな?」

と少しずつ再生しながら、リスナーのコメントを見つつ調声していく。

「うーん……こんなかんじ?」
ヘッドセットをつけている、その口元から出ている声は可愛らしいものだが、実際に放送されているボイスはそのへんのおじさんみたいなものであった。変声ソフトを使っているのである。

「じゃあ次つぎ~、こっちは……歌詞を『あたたかい』から『あったかい』にしたほうがいいかな?」
「ふむふむ、こっちは半音下げ……」

銀色のショートカットに、きりっとした雰囲気ながら、まぶたが少し重そうな緑の瞳。
暗い部屋でPCに向かうその少年こそ、有名ボカロPでニコ生主で踊り手である天才少年。
ナナPこと、白花七琴であった。



「さて、今日の作業は終わりにしようっと~。あと一枠雑談枠するけど、なんか要望ある?」
『無論本人登場だろ~~~』
『本人登場オナシャス!!!』
「ふぇ!?しょうがないなぁ……準備するから次の枠まで待っててね~」

と言い、ちょうど30分で枠が終了し、僕は一旦ヘッドセットを外す。

「ん~っ、……っと。今日も疲れたぁ」

机に置かれたブドウ味のお気に入りの炭酸ジュースを2Lボトルからごくりと飲んで、ごそごそと背後を片付け、アイドルテーマパーク『プリパラ』で最近出てきた人気のアイドル『らぁら』を模したお面を取り出して顔を隠すためにつける。

「よしっと」

再度枠を取り、ラスト枠を放送開始。

「ただいま~っと」
『おかえり~~』『わこつ!』『わこつっつー』

だらだらとのんびり雑談をする。
ちょうど放送も中盤に差し掛かったころ、僕はふとうっかりジュースのボトルを倒してしまう。

「う、わぁっ!!……よかったー、蓋してて」

蓋をしていたのでジュースが爆散してPCを壊すという最悪の状態には陥らなかったが、その付近に積んでいた、箱に入ったお菓子(大量)を思いっきり崩してしまう。

「うわうわうわやばいどうしようこれ!?!?」
『枠閉じて片付けたら?』『大丈夫?www』
「わ、枠は閉じないよ……」

なんて答えつつ、積んでいたお菓子をなんとか片付け始める。
すると、その山からふとカードらしきものが出てきた。

「……あれ?こんなのあったっけ?お姉ちゃんがゲームのプロモカード混ざってたの気づかなかったのかな」

とそれを手に取る。
と。

「……って、えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
『待ってそれプリチケじゃねーかwwwwwwww』『まさかのナナP女児疑惑wwwwwwwwwww』『えまって女児!?!?!?』『くっそwwwwwwwwwwwwww』

コメントがどんどん荒れていく。
簡単に言うと、プリチケだった。
僕の名前が印刷されていて、僕を印刷されている、僕のプリチケだった。

「どうしようプリパラの神が間違えて僕に届けたのかな……僕は男なのに……」
『ええやんええやんあのレオナも男説あるんやし』『せやって一回は行ってみたら??』
「お、お外は出たくないよぅっ!!」

なんて言い合いつつ、お菓子の山を片付けながら今日の作業終了後の雑談枠は終わった。



そもそも僕がボカロPになったきっかけを簡単に言えば、それはいじめなのである。
いじめがきっかけで、小4になってしばらくして、学校に行くのも辛くなった。
自殺未遂をして、自分の部屋にこもるようになった。
僕の部屋には、パパが買ってくれた、いいPCがあった。
僕はそれに無料の音楽ソフトをいろいろ入れて、いじって遊んでいた。
その遊びの成果を動画サイトにうpしたのが、伝説の始まりって言われた。その曲がクオリティーが最高に高いと、小学生の作品と思えないと、ヲタクたちがいっぱい聴いてくれた。
パパは、そんな僕にボカロのソフトを買ってくれた。
すでに音楽ソフトを触るのに慣れていた僕にとってはボカロなんて簡単なものだった。
最初は1ヶ月に1曲、それが半月に一曲、1,2週間に一曲くらい、そして、今では一週間に一曲をうpするペースである。
その音楽活動を一番支えてくれたのは、お姉ちゃんだ。お姉ちゃんは最初、ネットで出会った一人のユーザーとして僕の曲を好きになってくれた。そして、僕の曲をモチーフにしてたくさんの絵を描いてくれた。
僕はこっそり深夜にお姉ちゃんの部屋を覗いたりしていたから、お姉ちゃんの正体を知ってる。けど、僕のネット上での姿をお姉ちゃんは知らない。
ある日、いつも通りに部屋の前に置かれた食事を自室に入れて食べようとすると、その上にメモがあった。

『ナナPの曲はすごいんだよ、なこも聴いてみてよ』

ナナPのP名は僕のP名だった。それを伝えるメモを書いて食事をのせていたお盆に乗せて返すと、お姉ちゃんが即座に部屋をバンバン叩いてきた。

「なこーーーーーーーーー!?!?嘘でしょ!?!?!?!?なこがナナPだったってどういうことーーーーーーーー!?」

僕は観念して部屋の鍵を開けるしかなかった。



「……なに、お姉ちゃん」
「う、なこってばこんなにやつれて……ちゃんとごはん食べてるし、おやつも結構消費してるみたいなのになんで……?」

と、僕のほっぺを、お世辞にも色が濃いとは言えない手で包む。

「そうじゃなくて」
「もっと早く知れたらよかったよぅ……私ナナPの曲の絵いつも描いてる『ヨツバ』だよ?」
「知ってる」

とりあえずぐいぐいとお姉ちゃんを追い出し、素早く扉を閉めて鍵をかける。

「えー久々なのにこれで終わり!?!?!?なんでなんでー!?!?」

と、ドンドンと扉を叩いてくるが無視して、布団に入ることにした。



布団にギュッとくるまって、今日届いたプリチケについて考える。

(……なんで届いたかなー。僕は男なのに)

観念したお姉ちゃんがようやくドアを叩くのをやめたのを確認し、水のペットボトルを一口飲んで軽く口をゆすぐ。
しばらくPCでパラッターのリプ返をしたあと、深夜になったのを見計らいトイレとお風呂のために部屋を出る。
が。

「なこーー!」
「げっ……!?なんで……!?」
「んふふー」

そこにお姉ちゃんがいた。

「なんで出待ちしてたの!?!?帰れ!!」
「えー……だってなことお話したいもん」
「だめ。っていうかお風呂とトイレ行かせて」

お姉ちゃんパジャマ姿だし、もう午前1時だし、さすがにお風呂は済ませているだろう。

「しょうがないなぁ……その後お話させてね?」
「う、うぅ……果てしなく気が重い」



お風呂上がり、麦茶を飲みながらお姉ちゃんと話す。

「……っていうわけでさー、いっそなこもプリパラデビューしちゃったら?」
「えー……僕は男だよ?乙女のパラダイスと呼ばれるプリパラに行って良いのかな」
「だーかーらー、あのドレッシングパフェのレオナも男の娘だって!私前に確認してきたもん!」
ほらほらほらほらっ!!とプリパスで盗撮したものと思われる画像を見せてくる。
「わ、マ、マジだ……で、でも僕はこんなに可愛くない!!プリパラの神に許されるほど女の子じゃない!!」
「……なこ、一回じっくり鏡を見ておいで」

言われたとおりにとりあえず鏡をじっくり見てみるが僕は僕だ。じっくり見たところで何も変わらない。

「……とにかく、僕はアイドルなんてしないもん。ボカロPやってればそれで十分だし」
「……はぁ。でも一回行ってみるくらいはいいんじゃない?南委員長曰く『プリチケが届いた者は何人たりともプリパラに出入りしていい』らしいし」
「……い、一度だけだよ。二度はないからね」



翌朝、僕はお姉ちゃんのお下がりの、クローバーがついた大きい麦わら帽子に白い半袖パーカー、グリーンのショートパンツに白ニーソ、そして緑のスニーカーという格好で、およそ2年半ぶりに外にいた。

「う、うぅ……お外怖い……」
「大丈夫だって、私が守るからさ」
「お姉ちゃん頼りない……」
「うぇっ!?」

お姉ちゃんの影に隠れるようにしながら、お姉ちゃんに抱きつくような感じで歩く。
意外とPrismStoneショップは近かった。およそ100mほど。

「いらっしゃいませ、PrismStoneへようこそ」

めが姉ぇが出迎える。

「いらっしゃいませ、初めての方ですね?」
「ひゃ、ひゃい……」
「えっと……登録する名前は本名の『なこと』でよろしかったですか?」
「……うーん、本名じゃなくって……ナナ、でもなくて……そうだ、『なこ♪』にしようっと」
「『なこ♪』ですね」
「なこ、かぁ……うん、呼びやすくていいと思うよ!」
「……ありがと」

プリパラに登録すると、プリチケを奥の筐体にスキャンする。



「プリパラチェンジ、完了っ!っと」
「かんりょーっ!」

僕は見た目まで変える気は起こらなかったが、お姉ちゃんは変えているらしい。普段は下ろしている、『そふぃ』くらい長い髪を三つ編みおさげに変えていたが、髪色と目の色は外と変わらず、僕とおそろいだった。
お姉ちゃんはCandyAlamodeのコーデ、僕はHolicTrickの「にゃんこメイド マカロンコーデ」を着ている。

「お姉ちゃん、三つ編みにしてるんだ」
「可愛いでしょ?まぁ、ステージには上がらないんだけど」
「……今度曲作ってあげてもいいけど」
「ほんと!?やったぁっ♪私ももうすぐ初ライブができちゃうんだ……」
「はぁ」

とりあえず、プリパラ中を姉さんに案内してもらいながら見ていく。

「そういえば今日土曜日なんだね、人が多い」
「うんー。なこはいつもおうちだからあまり曜日感覚ないもんね……」
「それは言わないで」

プリパラタウンをぐるっと見て回った後。

「ねーなこ、せっかくだし一回ライブしてみたら?」
「うぇっ!?で、でも、曲が……」
「なこの作った曲でいいじゃん!最新作のオケデータ持ってきてるよ?」
「……う、うぅ。衣装は?」
「せっかくだしこの場でデザインしちゃおう。色鉛筆とスケブ持ってきてるんだ!」
「ファッ!?」

思わず女の子とは思えない声が出てしまった。

「ふんふふーん、ふんふふー……」

お姉ちゃんは僕の目の前ですらすらと絵を描いていく。前後両方描いているのを見ると本気でデザインしているようだ。

「……できたっ!」
「は、早い……」

スケブを覗き込んでみると、僕がいた。
左のほうには『PR:トキメキリボンクローバーコーデ』、右の方に『CR:AseanCloverサイリウムコーデ』と書いてあった。どうやら、新ブランドを立ち上げてしまう気らしい。
トキメキリボンクローバーコーデはリボンとクローバーをメインにしたふりふりのかわいい衣装、AseanCloverサイリウムコーデは露出多めながらどこぞのサボリ巫女の袖みたいなものがついているセクシー&キュートな、ちょっぴり和風なコーデ。

「ま、待ってまさか新ブランド立ち上げちゃうの!?」
「ダメ?なこが着ないなら私が着るけども」
「い、いや嬉しいけど嬉しいけどさ!勿体無いって!」
「もったいなくないって!なこが着ないなら私が着るもん!」
「……む、むう……コーデどうすんのって言ったのは僕だけど、僕だけどなんでわざわざここまで……」
「あ、めが兄ぃさ~ん。このコーデでなこにライブしてほしいなーとか」
「かしこまりました」
「待ってーーーーーー!?!?」

僕が反論してる隙に話を進めやがった。

「これでよろしいでしょうか」
「はい!ありがとうございますめが兄ぃさん~」
「……お姉ちゃん…………。」
「はい、これ。ライブしておいで!」
「う、うぅ……しょうがないなぁ」



というわけでエントリーした。
すっごく緊張してる僕がいるけど、ちょっとだけ踊ってみたもやってるし、ダンスもたぶんいける……と、思う。思いたい。

「マイチケをスキャンしてコーデしてね」

そんなめが姉ぇの声を聴きながら、先ほどのプリチケをスキャンしていく。

「コーデチェンジ、スタート!」



「お姉さんにデザインしてもらった、リボンとクローバーがふりふりのキュートなドレス。初ライブ、がんばってね!」
「トキメキリボンクローバーコーデ、きらっ!」

ポーズを決めて、アピールしてみる。
上から降ってくるマイクをキャッチし、ステージに立つ。
最新作である楽曲「Clover」のイントロを聴きながら、ダンスを始める。



ばっと振り向いて、踊る。



真っ白な花を咲かせて
草原の真ん中佇む
君は一輪一輪を
冠へと変えてゆく



綺麗な花は 一人じゃ咲けない
だけど周りが多すぎても咲けない
ちょうどいい場所を探して



ランウェイを、歩く。



キラリキラリ輝くための秘訣は
ちょうどいい場所を探すこと
水のない砂漠の真ん中じゃ
雑草すらも生えないから



「メイキングドラマ、スイッチオン!」

シロツメクサの花が咲く。
その花から立ち上がり、手でハートを作る。

「きらきら……!」

にこっ、とスマイルを作って。



「ドキドキ!シロツメクサプレゼント!」



「サイリウムチェーーーーンジ!!」

きらきらと、お姉ちゃんの作ってくれたサイリウムコーデに衣装が変わっていく。

「……きらっ!」



キラリキラリ輝くための秘訣は
ちょうどいい場所を探すこと
誰かに頼りながら生きていく
孤独なままじゃダメだから


少しずつ強くなろう



サイリウムコーデを光らせながら、僕はラストのポーズを決める。


「きゃーーーーーー!」「なこちゃんさいこーーーーーー!」

そんな、プリパラらしい少々汚いガヤの中で手を振る。

「みんなー、ありがとーーーう!」

僕は、もう満面の笑みだった。
すごく、楽しい。

(また、歌って踊りたい……!今度はこのためだけに、曲を作って歌おう!)



「なこ、ライブはどうだった?」
「……すっごく楽しかった」

ベンチに座って、僕はかすかに笑った。

「今度はさ、一緒にライブしようね。お姉ちゃん」
「……、うんっ!」

と、閉園時間のアナウンスが響く。

「帰ろうか、なこ」
「うん。また明日も、プリパラ行きたい」

ベンチから立って、ゲートを潜り抜け、プリパラ外へと出た。



ゲートを出ると、SoLaMi♥Smileのみれぃがいた。

「あら、四琴さんに……そっちの子は、誰?」

一応一日だけパプリカ学園に行ってはいるのだが、さすがに忘れられているらしい。しょうがない。

「南委員長!えっと、私の弟のなこです。昨日プリチケが届いたんだよね」
「お、お姉ちゃん!?」
「お、弟……!?レオナだけじゃなかったのね、男の子アイドル」
「う、僕は偶然であって男の娘ではないです……」
「なこはかわいいから女の子って言われてもびっくりしないよ?」
「ファッ!?」

さ、さすがに僕はバーチャルワールド以外で女の子として活動しようとは思えない。

「……というか、あなたの弟ということはパプリカ学園小学部の生徒かしら?」
「う……ぼ、僕は色々あって、不登校ってやつなんですよ。今日までほとんどずっとおうちでした」

と答える。あまり詳細を言う気にはなれないし、思い出したくもない。

「ああ……白花七琴さんね?やっと思い出せたわ……道理で思い出せなかった訳ね」
「……僕を引きずり出そうとか考えてませんよね?」

委員長ということはそういうことを考えている可能性もある。

「……そうね、無理やり引きずり出そうとは思わないわ。さすがにそこまで鬼になる気はないもの。でも……待ってるわ」
「う。ま、待たなくていいです」

引きずり出す気はないらしい。のはいいんだけど、本当に待たなくていいから……ほんとにプリパラに行くことになったのは半分お姉ちゃんに引きずり出されたようなものなのに、学校だけはやだ。

「そう……まあいいわ。夏だからまだ明るいけど、親が心配するでしょう?早く帰ったほうがいいわよ」
「そうですね。帰るよ、なこ」
「……うん」

お姉ちゃんの手を握って、おうちに帰る。
今日のこと、ブログに書こうか、パラッターでつぶやこうか、でも身バレやだなぁ……

Comment
  • たぶん誰も見てないだろうけど、お久しぶりです、心配かけてごめんなさい。ちゃんと生きてますよー。3月までついったとか復帰できそうにないです。まあ受験だしちょうどいいのかなあ……。3DSあるんでミバはしてます、とび森で。(次コメに続きます) --- ポーラたん (2017/01/30 21:12:48)
    • とび森始めました。きょくとう村 しまの です。夢見ggれば出るんで。ミバの方は村名&キャラ名から適当にあたりをつけてくださいな。ついった復帰したらまたとび森のことうpりまくると思うんでそんときゃまたよろしゅう。でわでわ、ひょっとしたら3月までにまたここに顔出すかも? --- ポーラたん (2017/01/30 21:17:02)

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  • 最終更新:2016-04-17 13:27:29

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