novel_2

なこの事情とらぁらの想い

ある日プリパラに行く途中で僕は倒れた。
救急車で運ばれて、目覚めてからお医者さんに聞いた話だとヴァンパイアシンドロームらしい。
太陽光を浴びるときは全身紫外線対策しないとダメ、毎日血を吸わないとダメ、それプラスお薬飲まなきゃダメ、とダメなことばかりでめんどくさい。
部屋のカーテンは基本閉め切ってるから家に引きこもってるだけならいいんだけど、プリパラに行くという大事な用事があるので紫外線対策はだるい。



紫外線対策が面倒なのでプリパラに行くのは2日に1度になった。
そしてまた引きこもりに戻りかけていた。
らぁらちゃんがお見舞いに持ってきてくれたスイーツピザを食べながら、僕の部屋で話す。

「……っていうわけで、多分2日に1度くらいしかプリパラにこれないと思うんだ」

「そっかぁ……でも、来れないくらいひどい病気とかじゃなくてよかったのかしこまっ」

「そんなにひどかったらそもそもきっとらぁらちゃんのことも呼べてないと思うよ……」

「そ、そうかな?」

ちょっとどきっとしたらしい、らぁらちゃんは顔を少し赤らめる。
それを見て僕もついほっぺが熱くなった。

「ところでねらぁらちゃん、相談があるんだけど……」

「相談?」

ここで僕は、本題を切り出した。

「相談、というかお願いなんだけど、……その……」

さらにほっぺを熱くしつつ、ポケットから医療用のメスを取り出す。

「……なこ、くん?」

「安心して、必要以上に傷つけるつもりはないし、君がダメだというなら指一本も触れないよ」

「え……」

怯えるらぁらちゃんの手を握るためにメスを一旦横に置いて、お願いする。

「……らぁらちゃんの血、吸わせてくれないかな」

「へ……!?」

一瞬怯えがその表情から消えた気がした。

「……う……」

顔を背けるらぁらちゃん。

「嫌ならいいんだよ?拒むなら傷つけはしない」

「……」

「血を吸うと言っても、吸血鬼に吸われるようなのとはちょっと違う、かな。僕は八重歯もないし、出血させるのにどうしても先に傷をつける必要がある」

メスはちゃんと煮沸消毒してあるよ、と言っておく。

「それと……みんなに見えちゃうところだと困るだろうから、服を脱いでもらうことになると思う、けど……それでも大丈夫なら」

「……」

らぁらちゃんは俯きがちに目を逸らしつつ、考えているようだ。
頬の上を流れる髪を指先でいじっている。
薬を飲むために部屋に置いてあるミネラルウォーターを飲んで、改めてらぁらちゃんのほうを見ると、らぁらちゃんもこっちを向いてくれた。

「……、かし、こま」

珍しく小さい声で、そう言ってくれた。



「んっ……」

らぁらちゃんの太腿の外側に小さく傷をつける。

「……気分が悪くなったりしたら言ってね。流石に倒れられたりしたら困るから」

「……かし、こまっ……」

流れる血を舐め取って、そして傷口に口をつけて、ちゅう、と吸う。

「っ」

ぴくりとらぁらちゃんの身体が動くのを感じた。
顔が熱かったのが、熱さが身体中をめぐる感じに変わっていく。姉さんのを吸ったのと同じ、吸血するとき独特の感覚だ。
鉄の味が口いっぱいに広がり、零した分が唇の端から滴り落ちる。

「っなこ、くんっ……そろそろ、気分が……」

「……ん」

口を離し、脱脂綿で傷を拭って包帯を巻き、自分の口周りについた血をティッシュで拭う。

「……しんどいなら少し休んでいっていいよ」

「そうする……水、もらえるかな」

「ん、はい」

部屋の隅のほうにダンボールであるミネラルウォーターのペットボトルを一本渡すと、らぁらちゃんは一口だけ飲んで僕のベッドに潜り込む。
早くも寝てしまったのか、すぴー、すぴーという寝息が聞こえてきた。
ミネラルウォーターを飲んで血の味を喉の奥から胃の奥まで押し込んで、らぁらちゃんが起きるまで、最近発売されたお気に入りのラノベシリーズの最新巻を読む。



「ん……」

「あ、らぁらちゃん起きた?」

「ん、かなり楽になった」

冬なので夕方ながら暗い午後5時半、僕はらぁらちゃんの手をとって、エスコートするように立たせてあげる。

「まだ5時半だけど、暗いから今なら紫外線対策しなくても外に出られそう。危ないかもしれないし、らぁらちゃんちまで送るよ」

「いいの?ありがと、なこくん」

らぁらちゃんの手を引いて、1階に降り、外へ出る。

「今日はありがとね、色々と。また新曲ができたらあげる」

「ううん、いつもいろんな曲くれてるからいいんだよ」

手を繋いだまま、らぁらちゃんをお店の前へと送っていく。
お店についた頃には月も出ていたが、飲食業だからかお店は開いていた。

「それじゃ僕はもう帰るね。それじゃあね」

「かしこまっ!」

力強い返事をもらって、家に戻りに歩く。

「……ぁ、待って……っ」

少し歩いたところでらぁらちゃんに呼び止められ、振り返るとらぁらちゃんはちょっともじもじとしたしぐさをしつつ、僕の方を見ながら、本当に彼女にしては非常に珍しい小さな声で、何かを言った。

「……?」

聞こえなかったから、らぁらちゃんをじっと見つめる。

「あ、あのねなこくんっ!」

今度はらぁらちゃんらしいいつもの大きな声で、

「その、もし必要なら、また……」

と言ってくれた。

「……うん、また、ね」

そう言って笑ってみせると、もう一度向こうを向いて、また家に向かって歩いて行く。



わたし、真中らぁらは、家に入ってから、今日はお手伝いをしなくていいよとママに言われて部屋に戻った。

「おかえり、お姉ちゃん。今日はライブしなかったんだ?」

「今日は休みって言ったでしょ?なこくんのおうちに『お見舞い』に行ってたの」

「ふーん……」

妹ののんに「お見舞いってすっごく怪しいけど何してきたのお姉ちゃん」という目で見られつつ、机に向かってノートを開く。
宿題のノートなんだけど、つい、今日のことを思い出してしまって宿題が進まない。

(……どう、しよう……)

わたしは、ノートに突っ伏すような格好になって、握ってるえんぴつでノートについ書いてしまう。
なこくん、好きになっちゃったかも、と。
恥ずかしくなって消しゴムでごしごしと消して、こんな状態で宿題なんてやってられないよーっ!!と、ノートをばたんと閉じてベッドの上ののんの上にぼふんと倒れこむ。

「ちょっ、お、お姉ちゃん重いよっ!どいてっ!」

「……」

「……お、お姉ちゃん……?」

「……」

恥ずかしくて、口を開けたら今日のことやなこくんのことばっかりしゃべっちゃいそうで、何も言えなかった。

「……お姉ちゃん、全部内緒にしてあげるから、何があったのか教えてよ」

「……うぅ、かしこまぁ……」

全部話したら、のんはわたしに全面的に味方してくれることになった。すっごく嬉しい。
また明日……じゃ早いから、明後日か明々後日にでもスイーツピザ持って行ってあげよう。



お姉ちゃんが帰ってきたけど、少し顔色が悪かった。
何があったのか聞いてもなんも答えてくれないし、黙って宿題しようとしたかと思えば私の上に乗っかってくるし、ほんと意味分かんない。
だから全部秘密にするっていって話を聞いたら、どうやらあの『なこくん』が好きになっちゃったんだって。お姉ちゃんがそんなこと言うなんて思わなかったよ……。
でもまぁ、味方しておけば悪いことはなさそうだし、お姉ちゃんに味方することにした。

「……お姉ちゃんとなこさん、かぁ……」

うーん、正直に言ってこれどう動くのかわかんない。
というかそもそも血を吸わないと死んじゃう病気って時点ですでに信じられないよ……。
だから味方するついでにちょいと探ろうかな、なんて。



僕は、引きこもらなくなってからもなんだかんだで習慣で自室で食事を摂っている。
お姉ちゃんにお盆で運んでもらった夕食を、昔とは違って手で受け取って、L字の机のPC類のないところで食べる。
今日の夕食はツナマヨのトーストサンドにミネストローネ、サラダと、デザートに苺のムース。いつも通りながら少し軽めの僕好みだ。
食べながららぁらちゃんのことを考える。
送って家に帰る直前、小さな声で聞こえなかった言葉。
それを言った時らぁらちゃんは、顔をすごく赤らめていたような気がした。
まさか僕のことが、いやいやありえない、なんだろう……
この気持ち、わからない。
意味がわからないよ。
あの子のこと考えるだけで身体が熱くなって、変な気持ちになる。

(……どうすればいいの?)

食べ終わった食器をお盆に載せて部屋の外においておくと、薬を水で流し込んで布団に潜り込んだ。
もうわかんないから寝る。
おやすみなさい、と心のなかでつぶやいて、僕は目を閉じた。


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  • 最終更新:2016-04-17 13:26:24

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